NPO日本食育インストラクター1級取得者インタビュー企画⑬:上田裕子さん
歯科クリニックで長年勤務され、現在は「歯科からの食育」のフィールドで活躍されている上田さんにお話を伺いました。ゼロからのスタート、いろんなご苦労があったようです。
Q.まず、クリニックで、食育を始めたきっかけ、から教えていただけますか?
矯正歯科を専門とする歯科医院で22年間勤務しています。勤め始め2~3年したころ、院長から歯科助手の私に、「食育して」といきなり言われました。まだ歯科分野で食育をしているクリニックはほとんどなく、何をしていいのか分からず、最初は歯科衛生士や、当時立ち上がったばかりの口腔筋機能療法(MFT)の方と、手探りではじめました。
最初は不安だらけでした。食育のことを説明しようにも、自分自身がどれくらい分かっているのか、それをどう伝えたらいいのか、チラシやパワーポイントは作成してみるものの、患者さんにうまく伝わっているかとても不安でした。当時は、歯科治療の中で、食育は、矯正・予防歯科そして口腔筋機能療法に次いで、3番手という意識がありました。
主要な業務を邪魔しないようにしなくてはとも考えていました。そのため、矯正歯科・予防歯科・口腔筋機能療法の治療・指導の中で、食育として、何をどのくらい伝えたらいいのか、確立するのにも時間がかかりました。
そもそも食育とは何かわからなくなる時もあり、そんな時、食育インストラクターがあるのを知りました。がくぶんの食育インストラクタープライマリーは1級までステップアップでき、食に対する知識領域が広がるのではないか、自信もつくのではないかと思いました。毎年行われている講座は、食育の新しい情報を得ることで視野が広がり、歯科分野での食育指導にも役立っています。

Q.実際に、矯正歯科専門のクリニックで、食育の指導をしてみてどうでしたか?
本人や親御さんがリスクを理解しようと質問してくれ、納得し、生活習慣を変えようとしてくれることがとても励みになりました。いろいろ質問してもらえることで、患者さんへの伝わり度合いがわかり、また説明の仕方の工夫へと繋がり、私自身もっと知識を広げようと思いました。
最初のころ高校生の女の子は歯肉炎がひどく、糖質(間食や甘い飲み物)の話を伝えました。1か月後ひどかった歯肉炎が良くなり、間食に気を付けたことをうれしそうに話してくれ、とてもやりがいを感じました。
具体的な指導内容として、体系的に次のようにまとまりつつあります。まず歯科分野として、口腔筋機能での正しい食べ方、噛むための食品・調理、歯肉炎・歯周病と食、砂糖だけではない虫歯の原因、酸蝕歯、口内炎と栄養、歯周組織の栄養など。次に、下顎の成長と身長は比例していることより、成長と栄養、小食、睡眠など。最後に、食育全般として、添加物、外食・中食、AGEs検査とそのリスク(終末糖化産物(AGEs)は健康寿命と関係すること)、血糖値、糖による不調、栄養(新型栄養失調)、野菜不足、食の多様性、一日の水分(脱水・唾液)、リーキーガットなどです。
私の食育活動は、歯科からみた食生活・生活環境による口腔内リスク・健康リスクに対する指導提案、また口腔筋機能療法の咀嚼・嚥下による食べ方指導提案となるでしょうか。
Q.「歯科からの食育」を実践され、難しいと思われた点など、ご紹介いただけますか?
難しい部分は、矯正歯科・予防歯科の患者さんが、今困っている事については真剣に聞いてくれるのですが、患者さん・保護者の中には「歯列を治しに来ているから、食育なんて興味ないし生活習慣なんて変える気ない」と聞き流す方も多いのです。リスクを理解してもらうのが難しいです。
患者さんには医院で検査したすべての結果から、リスクを拾い出し説明し、食育からのリスクを話します。患者さんの生活習慣・環境などを考慮し、できそうなことを提案していくうちに話を聞いてくれるようになりました。それでも、聞く気のない方がいらっしゃるのも事実ですが(笑い)、最後困ったら相談に来てもらえるようにお話しています。
Q.今後の食育活動をどうしていきたいとお考えでしょうか?
正しい知識を、理解しやすいように、検査結果や口腔内の写真を見せながら、説明しています。それでも興味を持ってくれない患者さんによりわかりやすく、他人事ではなく自分の事としてわかってもらえるように、より工夫していきたいと思っています。
食育インストラクター・ONE(Orthomolecular Nutrition Expert)・AGE(老化物質)フードコーディネーターで知識を広げ、Dr.と歯科衛生士に歯科との関わりを確認しながら内容を深め、それがキャリアになればいいと思っています。得た知識を正しく、独りよがりにならないように咀嚼し、患者さんの立場に立って指導提案につなげられること、それにより患者さんも考えてみよう・変えてみようと思ってもらえることが楽しく好きなことです。
私は人の前で話をすることが得意ではないのですが、1対1(2)だと何とかできます。一人一人の患者さんに向き合っていきたいと思っています。
Q.最後に、趣味など、食育以外の活動で注力していることなど、お話しいただけますか?
主人は家庭菜園、私はハーブなどを育てています。春から秋にかけては新鮮な野菜やハーブの香りを満喫しています。近所や知り合いに配り切れなかったものを冷凍したり、瓶詰めにしたりもします。また、旅行先で近所では手に入らない食材・珍しい食材を買ってきて思い出といっしょに、新しい食を楽しんでいます。料理もいろいろ挑戦していますが、医院でも話している手前、低糖質・高たんぱく・食の多様性には気を付けていかないとですね、笑い。
好きな言葉ですが、ダルビッシュが言った「今日の身体は昨日までの食事でできている」、これを基本にストレスなく食に向き合えるよう日々考えています。
食以外では、断捨離の為に手芸を再開しました。家の中にある毛糸・刺繍糸のほかに時間があれば、ネクタイ・着物のリメイクをしたいと思っています。
主人も定年を迎えて、私もいつまでこの仕事をしていくか考えています。いつまでできるかわかりませんが、微力ではありますが「歯科からの食育」を伝えていければいいと思っています。
「歯科からの食育」の分野をクリニックの中で立ち上げられ、その最前線でのお話、興味深いこといっぱいでした。本当にありがとうございました。プライベートも含め、益々のご活躍をお祈りいたします。
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